積極果敢な一歩が組織を強固にする
社団法人倫理研究所法人局: 今週の倫理 638号より
組織力を論じる際に、「一人の百歩より、百人の一歩」という言葉がよく使われます。突出した能力を持つ人間が一人で組織を引っ張るより、小さな力でも百人(組織を構成する全員)が協力しあっていくことで、「一人の百歩」に匹敵する働きが出来るということを教えています。
しかし、この言葉には捉え方によって大きな落とし穴があることを認識しておかなければなりません。
一般的に、人は出来るならば、辛いことや苦しいことに直面したくないと思っています。「百歩」ではなく、「一歩」が目標になった時、「百歩を課せられる」より、「一歩で済むのなら」という安堵感が先に立つのではないでしょうか。
そこには、「何が何でも」という心境は失われ、「いつでも出来る」という沈滞ムードを漂わせることになります。気づいた時には、全体で一歩も進んでいないという事態にもなりかねません。
仕事上の売上げ目標達成などにおいても同じことが言えます。「大きな目標を立てて未達成に終わるよりも、小さな目標を確実にものにしていこう」といった方針が掲げられることがあります。
言葉としては非情に的を射ているようですが、百歩か一歩かの話のように「これだけでいいのなら」という気持ちが生まれれば、目標の達成など遠く及ばない話になることでしょう。
大リーグで九年連続二百本安打の新記録を達成したシアトルマリナーズのイチロー選手。彼は安打数を打数(打席に立った回数から四球や犠牲バントなどの数を引いたもの)で割った「打率」ではなく、「安打数」そのものにこだわり続けています。
その理由としてイチロー選手は、インタビューで「ヒット(安打)は打ったら減らない。打率は打席に立てば下がる可能性がある。だから、打率にこだわれば、ある程度の数字に達した時から、打席に向かうことに消極的になる。ヒットを重ねるには、積極的に打席に向かい続けなければならないから」と答えています。
基本的には、安打の数が増えれば打率も上がるので、どちらにこだわっても同じように思えます。しかし、その姿勢が積極面に出るか、消極面に引っ込むかでは、目標を達成できる確率という点において、大きな差が出るのです。
小さな目標でもかまわないというように、曲線を招く、「百人の一歩」という言葉が、消極的な姿勢につながるならば、言葉の持つ本来の教えからは大きく離れます。また「一人の百歩」も、残りの九十九人が一人へ依存する脆弱な組織を作ることになります。
「百人が百歩を目指して一歩ずつ前進する」を基本に、時には「百歩を目指す一人を九十九人が支える」組織作りこそが、常に大きな目標に到達することの出来る強力な組織といえるのです。
2009.11.16.