「 人を安心させる人 」 を読んで
感想文:大阪営業所 橋本廣明
名前を憶えてもらっていた。それだけで人はうれしいもの。客商売で成功する秘訣は、人に対する記憶力にある。
ある人が万年筆を買う為に、文具店へ出かけた。ショーケースに並んだものを、あれこれと見ていると、傍らに立つ店員が、「どうぞお好きなもので、試し書きをなさってください。」という。店員の用意した紙に試し書きをしたが、その場ではすぐに決めかねていたので、他の店も見て回ることにした。後日改めてその店に行くと、先般の店員が顔を見るなり、朗らかに笑って、「○○さん、先日はありがとうございました」という。その人はびっくりした。名前を名乗った記憶はない。名詞を渡した覚えもない。どうして、この店員は自分の名前を知っているのか。そうだ、あの時「試し書きをなさってください」と差し出された紙に、何度も自分の名前を書いたからだ。そういえば、やけに真剣な眼差しで、紙にしたためられる筆跡を追っていた。あれからもう二週間になる。ふたたび訪れるかどうかさえ分からない客一人の名前をよく覚えていたものだ。それだけ、客を大切にする気持ちがこの店員に養われている。気持ちよく買い物ができ、その店員は高価な万年筆を一本売り上げた。見た目も大事だ。服装が綺麗だと見ていて気持ちがいい。相手の状態や状況に合わせて、服装を派手にしたり地味にしたりする。
体の健康ばかりではない。心のやすらぎ、心の健康のためにも、人からの愛情は必要だ。人の心を励まし、安らかにし、潤いのあるものにしてくれる。だからこそ、身近にいる人たちを疎かに扱ってはいけない。人を大切に生きていかなければならない。人は支えあっていかなければならない。
2019.3.30.