『何故中国人は財布を持たないのか』 を読んで
感想文:大阪営業所 新潟隼久
日本人の対中観はとかく極端に振れやすい。爆発的な成長に驚いたかと思えば、成長が鈍るとリスクばかりに注目する。著者は画一的な見方を退け、刻々と変わる中国社会を等身大で見つめるべきだと説く。
中国経済でいま関心を集めているのがスマートフォン(スマホ)決済の普及だ。シェア自転車などのサービスが次々に誕生し、日本をはるかに上回るペースでキャッシュレス化が進んでいる。そこに新たな「中国すごいぞ論」が生まれる。
一昔前は違った。紙幣はくしゃくしゃで自動販売機は使いにくく、店員はぞんざいな態度でお釣りを投げ返す。タクシーでニセ札をつかまされることも少なくない。お金の扱いに関し、中国の印象を悪くするような逸話に事欠かなかった。
本書はこの二つのエピソードを結ぶ。不便だからこそ、スマホの登場で一気に新しい決済が普及した。社会に不信感が蔓延しているからこそ、だまされる心配の少ないスマホのサービスに飛びついたのだが、その先が確信だ。
高成長の果てに中国人は互いに信頼し合い、高い買い物をひけらかす成金趣味を排し、余暇を静かに楽しむような暮らしを模索している。タイトルの問いかけは、多目的な社会の変化を照らし出す。
2019.1.31.