HOME › トップの提言〜ものの考え方〜 › 「週刊東洋経済」記事より『 サントリーに感じる一族の力 』

トップの提言〜ものの考え方〜

「週刊東洋経済」記事より『 サントリーに感じる一族の力 』

「週刊東洋経済」2015.10.3.記事より
『 サントリーに感じる一族の力 』米田隆早稲田大学大学院客員教授

 今、日本の企業が直面している大きな問題が事業承継です。高度経済成長が始まる前に企業を創業した人たちが、年齢を重ねた。バブル時代はまだ60歳代前半で元気いっぱいだったが、20年以上が経過して、そうはいかなくなりました。
 どんなファミリービジネスでも経営者でもライフサイクルからは逃れられない。そうした事実を突き付けられる時代に入ってきたのです。ファミリービジネスの経営交代の問題の本質は、事業を継ぐ者がその後の20~30年も経営を担うということです。もし誤った事業承継を行うと、その瞬間から企業は破綻への道を歩むことになります。
 その可能性はけっこう高い。創業者はその経営スタイルや事業が時代にフィットしてきたからこそ成長を成し遂げてきたわけですが、どうしても徐々に時代とずれてくる。ところが、成功体験を持っている人というのは自己否定できない。そんな創業者の親は多いです。
 それに対し、時代変化を皮膚感覚で感じ取って、企業変化の必要性も認識しているのが子供たちです。両者の対立が頂点に達する、それが事業承継の問題といえる。事業承継は今までの均衡が崩れるということでもあるので、みんなが不安になる。疑心暗鬼になります。だから、どうしても先延ばししたくなる。

ビジネススクールで一族をトレーニング
 本当はもっと早く世代交代をしなければならなかったのにできなかった。時代の変化に合わせて経営戦略を変えるべきだったのに、できないまま引っ張ってしまった。ファミリービジネスはそんな危険性をつねにはらんでいます。
 ファミリービジネスというのは、一族の一体性があるからこそ長い目で見た経営ができる。結束力の高い株主の存在が重要で、だからこそ経営者は一族への細かい配慮が欠かせない。それを省いて戦略を振り回すというのは愚かな行為です。
 欧米のファミリービジネスではまずそんなことはしません。スイス・ローザンヌのビジネススクール、IMDにはファミリービジネスセンターという専門機関があって、そこでファミリービジネスを行う一族をトレーニングします。ノウハウの蓄積もすごい。そのような研究は欧米のほうが進んでいます。
 大塚家具、ロッテ……。もし私が社外取締役だったら、創業者にはこう話します。「本当はもうとっくの昔に何もかも変えておかなければいけなかったんですよ。今やらないと会社は潰れますよ」と。その一方で後継者には、「おまえ、ばかなこと言うな。いちばん大事な利害関係者である創業者に配慮しないで、どうして一族を守れるんだ」と言いますよ。
 そのように間に入ってくれる社外取締役の存在は大事です。経済的に自分たちの会社の収入に依存していない人のほうがいいでしょう。
 日本でファミリービジネスの見本を探すなら、サントリーホールディングスですね。資産管理会社の株式を鳥井・佐治一族で数%ずつ分け合っている。だからでしょうか、創業家一族が生み出している集団の力を感じます。佐治信忠氏が経営に携わっていることが、ごく自然に一族のコンセンサスになっているように見えるのです。

2015.10.3.


このページの先頭へ