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「何のために生きるのか」 稲盛和夫・五木寛之対談より

感想文:河合孝一郎

 「話し上手」という言葉がある。「聞き上手」という言葉もある。しかし「話し上手」と「聞き上手」は別の物なのだろうか。「話し上手」な人は同時に「聞き上手」なのではないのだろうか。逆からいえば、「聞き上手」である為には真の意味で「話し上手」でなくてはいけないのではないか。
 この稲盛氏と五木氏の対談を読むと二人がいかに優れた聞き手であり、話し手であるかがわかる。
 例えば、「運命というのは心によって変えられる。その心が信念にまで高まったものであれば、それによって運命は変えられる」、と稲盛氏が言い切ると、五木氏は「心というのは、その人の運命を変えるだけではなく、その人の病気だとか健康まで影響する。」と補足し、話は宗教から政治にまで広がっていく。これは二人が「生まれてきた時の魂よりもっと魂を磨いて死ぬ時にはもっと美しいものにしておきたい」、という点で思想的に共通するものがあるからだろう。
 また、稲盛氏はいかに得られた結果よりも挑戦する意志を大切にしているのかがわかる。この本の中でどんな失敗を犯し、そこから何を学び、いかに今の自分に活かされているかが、いきいきと語られる。ここでは成功も失敗も高貴なのだ。
 京セラ、KDDI、そしてJAL。稲盛氏はいつも重圧の中にいる。しかし、驚くべきことは、苦しい中でも決して優雅さ、上品さを失わないことである。私は彼を「重圧のなかの優雅さ」と呼ぶ。彼は常にゆったりと微笑みを浮かべ人類史に残る重圧に挑戦し、そして優雅に飛翔していく。
 この対談では二人は心についてのみ語る。または心を高めることだけについて語る。それゆえに思想、哲学をもっている。それは会社を経営すること、本を書くことと、別のことではないのだ。
 稲盛和夫の経営はふたつの大きな車輪の車だ。ひとつは稲盛氏の哲学(フィロソフィー)そしてもうひとつはアメーバー経営である。このふたつが表裏一体となったとき稲盛和夫の仕事は冴えわたるのだ。

2013.3.1


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